#380 免震ゴム不適合問題で中間調査報告 東洋ゴム工業
- 2015/04/25
- 06:00
東洋ゴム工業が、大臣認定不適合の免震装置を製造販売していた問題で、東洋ゴム工業が外部チームによる「中間調査報告」を公表しましたので、メモしておきます。
本エントリは、中の人が報告書をみて要約したもので、やや正確性を欠きます。閲覧の際はご注意ください。
中間報告は全部で20ページありますので、概要をまとめておきます。
①序
1 調査に至るきっかけ
2013年2月ごろ、東洋ゴム子会社の従業員が免震積層ゴムの担当に。性能検査で行われている補正の根拠がはっきりしないことに気づく。前任者に根拠を確認したが、適切な回答が得られず。2014年2月ごろ従業員が上司と子会社社長に報告。社内調査が始まった。子会社から報告を受けた東洋ゴム工業は、子会社と合同で調査を実施。2015年2月6日、社外調査チームに調査を依頼。
2 調査主体
外部調査チームは弁護士10人で構成
3 調査目的
免震積層ゴムの性能検査で、技術的根拠のないデータ処理が行われた事実と、原因解明/こうしたデータ処理が、東洋ゴム工業と子会社で発覚した経緯と、これまで発覚しなかった原因解明/再発防止策の提言
4 調査結果の報告方法(略)
5 中間調査報告書(略)
6 これまでの調査期間
平成27年2月8日から4月23日
7 これまでの調査方法
(1)関係者と学識経験者延べ69人への事情聴取を実施
(2)関係資料などの分析検討
社内規定・組織図の社内文書
免震積層ゴムの大臣認定に関する資料とデータ
製品の性能検査に関する資料とデータ
会議資料
電子メールの分析と精査
(3)現場検証
②調査結果
1 製品「G0・39」に関する問題行為
前任者の問題行為が2つ確認された。
(1)大臣認定取得の際の問題行為
技術的根拠のない乖離値を記載して申請。5回の大臣認定を取得。
振動数の差を解消する補正を名目にしたり、振動試験をしておらず推定にすぎない技術的根拠のない乖離値を書類に記載して大臣認定を取得。
(2)製品出荷時の問題行為
前任者がこの製品を大臣認定の性能基準に適合しているように社内担当者に説明していた。前任者の後任2人(最初の従業員含む)についても、前任者がしていたのと同様に、補正を名目に恣意的な数値を用いて、大臣認定の性能評価基準に適合しているように社内各部へ連絡。真実を知らない社内担当者が出荷した。
(3)動機など
前任者は①直属の上司の監督が適切でなかった②製造部から納期に間に合わせることについてのプレッシャーを受けたことを指摘。前任者の後任2人も、直属の上司の監督が適切でなかったことを話した。今後、この話の信用性を検証する予定。
2 本件問題行為の発覚状況と、東洋ゴム工業、子会社の対応状況(略)=末尾「参考URL」を参照することを推奨します。
(前任者の異動と、その後任で最初に気づいた従業員の存在がきっかけに事態が動き出したことがわかる経過説明が記されていました)
一部だけ資料を載せてますが、東洋ゴム工業の消極的な姿勢の一端が伺えるような気がします(中間報告14~15ページ)。
③原因と背景=末尾「参考URL」を参照を推奨します
(問題行為が行われたことと、問題行為を10年以上も認識できなかったこと、端緒が従業員に認識されてから国土交通省に報告するまでに2年ほども要したことについて、厳しい指摘がなされています)
1 規範遵守意識の著しい鈍磨
地震被害を小さくする技術は生命財産を守るものとして、極めて重要視されている。その技術を取り扱うものは高い規範遵守意識が求められるが、この問題に関わったものの規範遵守意識は著しく鈍磨し、求められる水準とかけ離れていた
2 規範遵守意識の鈍磨を醸成させる企業風土
個人の問題に矮小化することはゆるされない。東洋ゴム工業と子会社には社員の規範遵守意識を鈍磨させる企業風土があったと考えるべき。両社には、一般従業員も経営陣も、この問題を重大なコンプライアンス違反と捉える姿勢が欠けていた。
3 管理・監督機能の脆弱性等
両社には、問題行為に関わっていたものを適正に管理監督するだけの免震積層ゴムに関する知識・能力を有する人材が存在せず、そのためこの問題行為の抑止・牽制が機能していなかった。そのため、問題行為に関与していたものは、社内の管理監督をほぼ受けず、開発設計担当を自分の権限のみで行えた。
4 会社としてのリスク管理の不備
両社には大臣認定の性能評価申請での免震性能の試験、出荷時性能検査の結果についてダブルチェックなどのルールが整備されておらず、問題行為に関与したものが報告する数値を何ら吟味せず、会社名義で大臣認定の性能評価申請や検査成績書を発行していた。
5 社内監査体制の不備
東洋ゴム工業とグループ会社に監査部門は複数存在。各部門の監査が別個に行われ、監査機能が分離していた。開発技術部門を対象に対する品質保証部の監査が行われることはほどんどなかった。品質監査の内容も、形式的なチェックにとどまっていた。性能検査中の数値が技術的根拠なしに恣意的に操作されていた場合には、この監査が適切な検証の機会にならず、問題行為を早期に発見することができなかった。
6 経営陣の意識・判断の甘さ
免震積層ゴムを製造販売する会社の経営陣には高い規範遵守意識が求められる。製品の安全性や性能に疑いが生じれば、国土交通省への報告や出荷停止措置などを、適切に行うことが必要だが、東洋ゴム工業の経営陣にそのような姿勢・意識が十分だったと言い難く、知識の欠如もあって、緊張感に欠けた楽観的な認識に基づく対応がなされた。
7 社内報告体制の不備
重大な問題が発生した場合は、上司だけでなくコンプライアンス部門への報告をするなど、適切な社内報告体制が実行的にルール化されていなかった。
8 社内調査体制の不備
東洋ゴム工業と子会社には常設され、非常時にきちんと機能する調査担当部門が存在しなかった。今回のような問題が起きた時にどうチームを編成して対応するかといった、枠組みが事前に想定、計画されていなかった。
9 事業部門と比較した場合の開発技術部門・法務・コンプライアンス部門の地位の脆弱性
この問題の調査は事業部門関係者が主導。開発部門は補助的に関与するのみだった。法務・コンプライアンス部門の関与も非常に希薄だった。なるべく大事にせず内部的に問題を納めたい、取引的との関係で出荷停止は妥当ではないなどといった事業部門の考えが優先させる傾向があった。技術的根拠がないことを明確に述べるべき開発技術部門や、出荷停止や国道交通省への自主的な報告などを強く推奨すべき法務・コンプライアンス部門も、職責にてらした適切な対応を取れず、事業部門の考え方が優先された
10 既存のガバナンス制度の不活用
ガバナンス制度はあったが、活用されなかった。
11 検査におけるデータ処理過程の記録化の不備
問題行為があったかどうかの検証を適切に行うには、免震性能の検査結果について、最終結果に至るまでのデータ処理の過程が必要になるが、両社では、データの処理過程が適正に記録されていなかった。
12 断熱パネル問題の教訓の不活用
断熱パネル問題で原因を踏まえた再発防止策が講じられたが形式的な制度導入などにとどまり、類似した今回の問題行為を防止できず、早期発見もできなかった。
④今後の調査予定
今後も調査を継続する。G0・39以外についても調査対象として、網羅的な調査を実施する予定。
東洋ゴム工業、再生できるのでしょうか。
中間報告を見る限り、かなり深刻な状況だと思います。
(参考URL)
社外調査チームによる中間調査報告書受領のお知らせ (東洋ゴム工業、4月24日)
(関連エントリ)
#376 新たに99棟の免震装置で不正なケース 東洋ゴム工業が国交省に報告
#357更新③ 東洋ゴム工業の免震ゴム性能問題、拡大か 「55棟以外に不正な補正」疑いと国交省
#351 積層ゴム型免震装置の大臣認定について実態調査開始 国土交通省
#348更新③ 東洋ゴム工業が認定不適合の免震装置を販売 「製品のばらつき」が過大
本エントリは、中の人が報告書をみて要約したもので、やや正確性を欠きます。閲覧の際はご注意ください。
中間報告は全部で20ページありますので、概要をまとめておきます。
①序
1 調査に至るきっかけ
2013年2月ごろ、東洋ゴム子会社の従業員が免震積層ゴムの担当に。性能検査で行われている補正の根拠がはっきりしないことに気づく。前任者に根拠を確認したが、適切な回答が得られず。2014年2月ごろ従業員が上司と子会社社長に報告。社内調査が始まった。子会社から報告を受けた東洋ゴム工業は、子会社と合同で調査を実施。2015年2月6日、社外調査チームに調査を依頼。
2 調査主体
外部調査チームは弁護士10人で構成
3 調査目的
免震積層ゴムの性能検査で、技術的根拠のないデータ処理が行われた事実と、原因解明/こうしたデータ処理が、東洋ゴム工業と子会社で発覚した経緯と、これまで発覚しなかった原因解明/再発防止策の提言
4 調査結果の報告方法(略)
5 中間調査報告書(略)
6 これまでの調査期間
平成27年2月8日から4月23日
7 これまでの調査方法
(1)関係者と学識経験者延べ69人への事情聴取を実施
(2)関係資料などの分析検討
社内規定・組織図の社内文書
免震積層ゴムの大臣認定に関する資料とデータ
製品の性能検査に関する資料とデータ
会議資料
電子メールの分析と精査
(3)現場検証
②調査結果
1 製品「G0・39」に関する問題行為
前任者の問題行為が2つ確認された。
(1)大臣認定取得の際の問題行為
技術的根拠のない乖離値を記載して申請。5回の大臣認定を取得。
振動数の差を解消する補正を名目にしたり、振動試験をしておらず推定にすぎない技術的根拠のない乖離値を書類に記載して大臣認定を取得。
(2)製品出荷時の問題行為
前任者がこの製品を大臣認定の性能基準に適合しているように社内担当者に説明していた。前任者の後任2人(最初の従業員含む)についても、前任者がしていたのと同様に、補正を名目に恣意的な数値を用いて、大臣認定の性能評価基準に適合しているように社内各部へ連絡。真実を知らない社内担当者が出荷した。
(3)動機など
前任者は①直属の上司の監督が適切でなかった②製造部から納期に間に合わせることについてのプレッシャーを受けたことを指摘。前任者の後任2人も、直属の上司の監督が適切でなかったことを話した。今後、この話の信用性を検証する予定。
2 本件問題行為の発覚状況と、東洋ゴム工業、子会社の対応状況(略)=末尾「参考URL」を参照することを推奨します。
(前任者の異動と、その後任で最初に気づいた従業員の存在がきっかけに事態が動き出したことがわかる経過説明が記されていました)
一部だけ資料を載せてますが、東洋ゴム工業の消極的な姿勢の一端が伺えるような気がします(中間報告14~15ページ)。
③原因と背景=末尾「参考URL」を参照を推奨します
(問題行為が行われたことと、問題行為を10年以上も認識できなかったこと、端緒が従業員に認識されてから国土交通省に報告するまでに2年ほども要したことについて、厳しい指摘がなされています)
1 規範遵守意識の著しい鈍磨
地震被害を小さくする技術は生命財産を守るものとして、極めて重要視されている。その技術を取り扱うものは高い規範遵守意識が求められるが、この問題に関わったものの規範遵守意識は著しく鈍磨し、求められる水準とかけ離れていた
2 規範遵守意識の鈍磨を醸成させる企業風土
個人の問題に矮小化することはゆるされない。東洋ゴム工業と子会社には社員の規範遵守意識を鈍磨させる企業風土があったと考えるべき。両社には、一般従業員も経営陣も、この問題を重大なコンプライアンス違反と捉える姿勢が欠けていた。
3 管理・監督機能の脆弱性等
両社には、問題行為に関わっていたものを適正に管理監督するだけの免震積層ゴムに関する知識・能力を有する人材が存在せず、そのためこの問題行為の抑止・牽制が機能していなかった。そのため、問題行為に関与していたものは、社内の管理監督をほぼ受けず、開発設計担当を自分の権限のみで行えた。
4 会社としてのリスク管理の不備
両社には大臣認定の性能評価申請での免震性能の試験、出荷時性能検査の結果についてダブルチェックなどのルールが整備されておらず、問題行為に関与したものが報告する数値を何ら吟味せず、会社名義で大臣認定の性能評価申請や検査成績書を発行していた。
5 社内監査体制の不備
東洋ゴム工業とグループ会社に監査部門は複数存在。各部門の監査が別個に行われ、監査機能が分離していた。開発技術部門を対象に対する品質保証部の監査が行われることはほどんどなかった。品質監査の内容も、形式的なチェックにとどまっていた。性能検査中の数値が技術的根拠なしに恣意的に操作されていた場合には、この監査が適切な検証の機会にならず、問題行為を早期に発見することができなかった。
6 経営陣の意識・判断の甘さ
免震積層ゴムを製造販売する会社の経営陣には高い規範遵守意識が求められる。製品の安全性や性能に疑いが生じれば、国土交通省への報告や出荷停止措置などを、適切に行うことが必要だが、東洋ゴム工業の経営陣にそのような姿勢・意識が十分だったと言い難く、知識の欠如もあって、緊張感に欠けた楽観的な認識に基づく対応がなされた。
7 社内報告体制の不備
重大な問題が発生した場合は、上司だけでなくコンプライアンス部門への報告をするなど、適切な社内報告体制が実行的にルール化されていなかった。
8 社内調査体制の不備
東洋ゴム工業と子会社には常設され、非常時にきちんと機能する調査担当部門が存在しなかった。今回のような問題が起きた時にどうチームを編成して対応するかといった、枠組みが事前に想定、計画されていなかった。
9 事業部門と比較した場合の開発技術部門・法務・コンプライアンス部門の地位の脆弱性
この問題の調査は事業部門関係者が主導。開発部門は補助的に関与するのみだった。法務・コンプライアンス部門の関与も非常に希薄だった。なるべく大事にせず内部的に問題を納めたい、取引的との関係で出荷停止は妥当ではないなどといった事業部門の考えが優先させる傾向があった。技術的根拠がないことを明確に述べるべき開発技術部門や、出荷停止や国道交通省への自主的な報告などを強く推奨すべき法務・コンプライアンス部門も、職責にてらした適切な対応を取れず、事業部門の考え方が優先された
10 既存のガバナンス制度の不活用
ガバナンス制度はあったが、活用されなかった。
11 検査におけるデータ処理過程の記録化の不備
問題行為があったかどうかの検証を適切に行うには、免震性能の検査結果について、最終結果に至るまでのデータ処理の過程が必要になるが、両社では、データの処理過程が適正に記録されていなかった。
12 断熱パネル問題の教訓の不活用
断熱パネル問題で原因を踏まえた再発防止策が講じられたが形式的な制度導入などにとどまり、類似した今回の問題行為を防止できず、早期発見もできなかった。
④今後の調査予定
今後も調査を継続する。G0・39以外についても調査対象として、網羅的な調査を実施する予定。
* * * * *
東洋ゴム工業、再生できるのでしょうか。
中間報告を見る限り、かなり深刻な状況だと思います。
(参考URL)
社外調査チームによる中間調査報告書受領のお知らせ (東洋ゴム工業、4月24日)
(関連エントリ)
#376 新たに99棟の免震装置で不正なケース 東洋ゴム工業が国交省に報告
#357更新③ 東洋ゴム工業の免震ゴム性能問題、拡大か 「55棟以外に不正な補正」疑いと国交省
#351 積層ゴム型免震装置の大臣認定について実態調査開始 国土交通省
#348更新③ 東洋ゴム工業が認定不適合の免震装置を販売 「製品のばらつき」が過大